天地人籟タイトル  
 
サイト内検索
 
▲次の記事
●記事一覧
▼前の記事
 
村の入り口
(TopPage)
 
 
ご感想やご意見は ...

ひろば(BBS)

e-mail
2006-05-14 ☆ 温床で育てた苗の定植

《畑では温床で育てた苗を次々と定植していく時期になった。田んぼでは田植えが近づく。苗の成長に作業のペースを合わせなければならないが、時間のやりくりの難しい兼業農家である私は、自然畝を利用したり、臨機応変に「農法」を編み出したりして、追いつかない対応をする。その一コマを紹介する。》
- 温床育苗の理由- 定植予定の慣行畝を急遽、「自然畝」に転換- 「大草」取りからはじめる定植作業


(クリックで画像の拡大)
カボチャの定植。
 畝はカラスノエンドウなどで覆われていた。その草を刈り、刈り草で畝を「マルチ」した。植え穴の底に発酵牛糞などの肥料を入れ、その上に土を薄くかぶせて、苗を入れる。ポットから外した苗が、穴の縁に置いてある。

(クリックで画像の拡大)
三つ鍬[三叉の鍬]で除草。
 大きくなった草の除草法。鍬を浅く土に入れて、草ごと持ち上げる。そのまま軽く揺すったり、草の根元を鍬で叩いたりすると、根から土が落ちる。土が乾いているときが、土が落ちやすい。
 写真の右側が除草した部分。カラスノエンドウが見える。四月終わりの畑。ズッキーニを定植した畝に隣接したところだが、二週間後の今は、草はさらに成長している。

(クリックで画像の拡大)
抜いた草はどうするか?
 草も畑のうち。そう考える私は、草は畑に戻す。草を荒れ地に棄てにいく人がいるが、私にはもったいなくて、とてもできない。乾かして焼き、草灰にして畑に戻す。慣行畝の草を自然畝に「棄てる」。あるいは、写真にあるように、除草した畝に埋め戻す。
  写真は、4月9日に人参を蒔いた時のもの。除草した草(カラスノエンドウが多い)は、畝に埋め戻す。その後で畝を整地して人参を蒔く。人参は草が埋めてない部分に蒔く。畝の左側に並んでいる緑色のポールは蒔き床の位置を示すためのもの。印がないと、整地した後でどこに草が埋めてあるかわからなくなる。
 草はそのうち土に戻る。腐熟の具合では、人参の肥料になるかもしれない。この草の処理法は、「あんこ」と称することにしている。草を土の中に挟み込んで「包む」と、野菜がおいしくなる(?)あんこの入った餅と同じである。なお、名称は、近所のおばあさんに教わった。
温床(*)で育てていた野菜苗を次々と定植していく時期になった。
(*)今年、温床で育てている(いた)苗は次の通りである。
 極早生スイートコーン。ナス(2種類)。ピーマン。パプリカ。トウガラシ。甘トウガラシ類(3種類)。トマト(3種類)。ズッキーニ。スイカ。マクワウリ。カボチャ類(3種類)。ソーメンウリ。ニガウリ。半白キュウリ。里芋。八つ頭。サツマイモ。
五月は畑と田んぼの両方で忙しい。週末が雨だと、それだけ作業が遅れる。しかも、取り返しがつかないほどに遅れる。野菜にしろ稲にしろこの時期の苗は成長がはやいので、のんびりと畑作業や田んぼ作りをしていたのでは、手遅れになってしまう。週日は朝晩、畑や田んぼに寄り、簡単な作業をする。週末は丸一日、野良で過ごす。ところが今週末は週末の天気が悪いと知り、急遽、授業も会議もない、直前の金曜日に休みをとり、農作業をすることにした。


予定した作業は、子芋[村では、子芋を食べるタイプの里芋を、こう呼ぶ]、カボチャ類、およびソーメンウリの定植である。

冒頭に挙げた作物のうち、四月初めに種蒔きした極早生のスイートコーンは、その一カ月後に定植した。スイートコーンはどうしても温床で育てなければいけない、というわけではないが、早く食べようとすれば、温床で苗を育てて、遅霜のおそれがなくなった時期に定植する。春先の露地の寒さでは発芽しないし、発芽しても霜が降りれば枯れてしまうからである。

温床育苗の理由
さて子芋、カボチャ、ソーメンウリはすでに定植適期になっている。一部、定植適期を過ぎているものもある。(ちなみに子芋は本葉が一枚出た頃、カボチャは本葉が四、五枚の頃が適期である。)

直播きもできるが育苗も可能な野菜は育苗することがよくある。ひとつの理由は、別の記事(「ベランダ・ポット育苗」)に説明した。もうひとつの理由は、畝を作るまでの時間稼ぎのためである。カボチャは直播きし、ホットキャップ[作物を枠で囲んでその上に透明ビニールをかぶせたり、ドーム型に成形したプラスチックで覆ったりする方法]をかぶせて保温して発芽させる方法もある。しかし、私は温床で育苗して、適度な大きさになった苗を定植する方法をとる。四月初めに種蒔きすれば定植は五月に入ってからになるので、カボチャであればホットキャップは省略することができる。

定植予定の慣行畝を急遽、「自然畝」に転換
カボチャ類は、今年はミニカボチャ、小型カボチャ、ズッキーニ、ヒョウタン型黄皮カボチャの苗を育てた。小型カボチャとズッキーニは慣行畝[慣行農法で栽培する畝]に、それ以外のカボチャは自然畝[自然農法で栽培する畝]に定植した。小型カボチャを定植予定の慣行畝は去年ナスを栽培した畝である。栽培が終わってからはずっとそのままにしておいた。この畝は、自然畝を慣行畝に再転換したところである。自然畝時代に草の種がたくさん落ちたので、草が生えやすい。実際、晩秋に芽を出し始めたカラスノエンドウは春になると畝全面を覆うようになった。それでも定植する前に草をとって耕しておくつもりであったが、通いの一人兼業農家の悲しさ、温床育苗をしての時間稼ぎの目論見もむなしく、時間を作り出せないままに定植期を迎えた。そこで、ままよと腹を据え、カラスノエンドウを刈り倒し、自然農法の手法で定植することにした。カボチャはさほど肥料を要求しない。むしろ肥料をやりすぎると、実がつきにくくなる。また、カラスノエンドウは根粒菌で土中に窒素を固定し、また刈り倒し畝を覆った地上部は、肥料になると同時に、しばらくは他の草が生えるのを抑制してくれる。カボチャとカラスノエンドウについてこのように推論して自分を説得し、数日前に畝の草を刈った。

その私を見て、従姉が不審気に、草を刈ったままで作物を植えるつもりなのか、と訊いた。私が数年前から自然農法を試行しているのはよく知っている従姉だが、草の中に種を蒔いたり苗を定植したりするのを見るたびに、飽きず不審気に訊く。また、草を刈るほんの少し前、畑の側を軽トラックで通り掛かった近所の人が、車を止めて私と短い話をしたあとで、件の畝の方を見て、ここも草が生え放題になったね、と言い、あんたの状況では仕方ないか、といった具合に微笑んだ。いずれにせよ、草の生えた畝で作物を作るのは、やはり常軌を逸しているのである。

「大草」取りからはじめる定植作業
小型カボチャは臨機応変に栽培法を変えたおかげで、簡単に定植できた。問題はズッキーニである。ズッキーニは初めて栽培した年、自然畝を利用した。というのも、ズッキーニはたくさん実が採れて困るくらいだ、という話を小耳にはさみ、てっきり肥料をあまり要求しない作物である、と誤解したからである。自然農法を試行し始めた頃は、農法の原則を杓子定規に守り、無肥料で栽培していたので、ズッキーニは不作に終わった。その失敗から、ズッキーニは無肥料ではだめだ、と理解した。考えてみれば、当然ではある。次々と結実する実を若採りするのがズッキーニの栽培法である。豊産型の作物が肥料を要求しない、ということはない。それからは、慣行畝に栽培地を移し、元肥はむろんのこと、収穫期間中に草勢を見ながら二、三度追肥するようにした。すると、「たくさん実が採れて困る」状態になった。

今年もズッキーニは慣行畝で栽培することにしていて、畝も決定していた。しかし、その畝は昨秋に、ビートと白菜を作り、以降草取りはしていない。したがって、この畝も草が繁った。この畝は、慣行栽培をする区域にある。だから、草が繁ったからといって、小型カボチャの場合のように、自然農法の手法を使うのは避けたい。ズッキーニの定植は、したがって、まず草取りからはじめなければいけなかった。

栽培予定の20株に必要な面積は、大雑把に言って、1.2m[畝幅] × 10m[畝長] である。草が生え始めのときは、除草の必要はない。耕すだけで除草できる。鍬ではなく耕耘機を使えば、完璧に除草できる。しかし、草は大きくなると、その場所にすぐに植え付けしようと思えば、抜きとるしかない。私は鍬で掘り起こしながら、除草する。このほうが、草取り専用の小さな道具を使うより(少なくとも私には)はやいし、楽である。楽と言っても、かなりの労力を要する作業であることには変わりない。草取りが終わると、肥料を散布し、再び鍬で耕して整地する。こうしてようやく定植の準備が整う。今回は、二日前に雨が降り土が水分を含んで重くなっていたので、そうでなくてもきつい作業がさらにきつくなった。


他のカボチャ類とソーメンウリは、定植予定の自然畝の草刈りをするだけで定植準備完了。草刈りは畝の幅半分だけを刈った。畑の「生態系」を激変させないように、との配慮からである。残り半分は一週間か二週間後に刈るつもりである。それ以降は、野菜と草との生育状況を見ながら、野菜が負けない程度に草刈りをする。

カボチャとソーメンウリを定植すると、夕方になった。子芋は、二日前の雨の影響で、定植地に予定している休耕田が湿っているので、定植を延期した。

朝は動きのすばやい身体と回転のはやい頭は、一日の作業を終えると疲れ切る。身体の動きは緩慢になり、作業の要領も悪くなる。小屋で着替えると、一時間の運転が必要な帰途についた。

農耕は、季節の巡りの中で生育する作物のリズムに、身体のリズムを合わせていく営みである。兼業農家は、さらにもうひとつのリズムをもつ。二つのリズムを兼ねもつ身体なのか、二つのリズムに分裂した身体なのか、むしろ、できうるならば二つの身体をもちたい、というのが、私の欲張りな、しかし切実な夢の願望である。
 
先頭に戻る
 


てつがく村
depuis le 1er avril 2000