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2001-10-29  かえって虫害が増えた!

自然農法に移行すると病虫害は心配しなくてもよくなる、と言われている。

自然農法の無除草と違い、慣行農法では、畑の草をとったり、畑の周囲の草を刈ったりする。その理由のひとつは、害虫の住処をなくするためである。
白菜の生育初期につく害虫にダイコンサルハムシがある。放っておくと、白菜は芯まで食い荒され、消えてしまう。だから、農薬を使いたくない私は、8月終わりからの育苗中には寒冷紗で隙間のないようにきっちりと覆う。わずかでも隙間があると、てんとう虫ぐらいの大きさで黒光りがするこの虫は、かならず覆いの中に入って来る。さらに、本葉4枚で定植してから2週間ほどは、朝晩、畝を廻って虫を取る。こうして9月も終わりになり涼しくなると、虫は目立たなくなり、白菜の方も少々食害されても負けないくらいに大きくなる。むろん涼しくなって蒔けば、こんなに世話を焼かなくてもいいが、白菜は白菜にならない。葉数がじゅうぶんに増えず、結球しないのである。
このダイコンサルハムシは周囲の草の中に潜んでいる。害虫防除の本(木村裕『改訂版 害虫防除対策』タキイ種苗)で、「枯れ草の株際や落ち葉の下、石垣の隙間などで越冬し(…)春も夏も越冬場所で眠って過ご」し、「山間部の圃場で発生が多い」と読んだことはあるが、隠れ住んでいる場所を目撃したことはなかった。ところが、この秋、稲刈りの準備のため、田圃に隣接している休耕田の横手[田圃の周囲にある排水路]を浚っていたときである。畦の枯れ草を持ち上げると、下から何匹ものダイコンサルハムシが出てきた。休耕田で畦の草が生え放題なのに乗じて、そこで繁殖し生活してきたかのような様子であった。本の記述の通りである。
今年の白菜は、育苗中にしっかりと覆いをかけておかなかったため、定植前に全滅した。やむなく、9月半ばに今度は直播きしたが、白菜になるかどうか心配である。(なお、8月終わりに、直播きせずに育苗するのは、虫害対策のためである。直播きにすると、目が届かず、若い白菜は虫の餌食になる。)

白菜にダイコンサルハムシを呼び込んだ原因として、覆いの問題以外に、育苗土が肥えすぎていたこともあるように思うが、それ以上に気になったのは、自然農法を始めて、予想とは逆に虫害が増えたことである。
今春、3月の終わりと4月の終わりの2回、自然畝に二十日ダイコンを蒔いた。しかし、いずれも双葉のときに虫にやられ、一つ残らず消えてしまった。普通、二十日ダイコンは少々虫害に遇っても芽が出たもののほとんどは大きくなる。一つ残らず消えるのは、いままでに経験したことがない。さらに、9月の始めに蒔いたのも、消えてしまった。9月終わりに蒔いたのが、食害に遇いながらもやっと収穫できた。
自然畝に、今秋、9月20日過ぎに蒔いた赤カブもやはり同じ運命をたどった。10月始め、同じ畝に蒔き直したが、これも生き残っているのはごくわずかである。
虫食われダイコンと地蜘蛛
左上の虫に食われた野菜は、ダイコン(カブ型の激辛ダイコン)である。右下、植物の枯れた残骸のうえに蜘蛛がいる。自然畝を歩くと足元から小さな虫が逃げていく。今の時期は、蜘蛛のほかに、小さなコオロギもいる。絶えず動く彼らを写真にとるのは難しい。やっと見つけた被写体が、珍しくじっとしていたこの蜘蛛。その大きさ(小ささ?)は、写真中央辺りとかに散らばっているもみ殻と比較していただければ分かると思う。
二十日ダイコンや赤カブを蒔いたのは、去年秋から意識して始めた自然畝である。ただし、昨秋は化学肥料を使った。栽培したのは、ラッキョウ、キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、カブ、ネギである。そのうち、キャベツとブロッコリーとカリフラワーは、蝶除けの寒冷紗を外した時期が早かったのと暖冬のせいで、虫だらけになった。まるで蝶の飼育場である。野菜は、そのまま畝に残しておいた。虫害に遇った畝は、自然畝5畝のうち2畝を占める。これらの畝に今秋蒔いた野菜は、他に、シュンギク、エンダイブ(育苗後に定植)、広島菜、ダイコン(カブ型の激辛ダイコン)、地這いキュウリ、ツルなしインゲン、ホウレンソウ、キャベツである。このうち、虫の食害が目立ったのはアブラナ科の広島菜ダイコンである。広島菜は9月半ば過ぎに蒔いたので、少々早かったせいもあるのかもしれない。ダイコンの方は、9月20日過ぎである。ダイコンは普通9月10日に蒔くから、蒔いた時期は遅い。それでも葉は小さな穴がたくさんあいている。
アブラナ科は虫に食われやすい。それにしても、自然畝の場合は度が過ぎている。

自然畝は、雑草は抜き取らず、刈り取った草もそのまま畝に転がしておく。言ってみれば、虫の住処を作っているのである。実際、畝で見る虫は数も種類も多くなっている。目につくものでも、てんとう虫、カマキリ、キリギリス、コオロギ、蜘蛛などがあり、きれいに除草された畝では見られない光景である。だから、当然、「害虫」もいる。しかし、自然畝では特定の虫が異常に増えることはなく、さまざまな虫が共殺・共生している。また、除草された畑では野菜を食害する虫でも、野菜以外の草の方を好むものもいるので、草が生えていれば、野菜だけが虫の標的になることはない。だから、自然畝では虫害は目立たない。いな、そうであるはずである。そうであって欲しい。

では、なぜ自然畝で虫害が増えたのだろうか。
理由のひとつは、自然農法を始めてまだ日が浅いため、畝の〈生態系〉のバランスが自然農法向きになっていない、ということが考えられる。自然農法を始める前は、無農薬はかたく守ってきたとはいえ、化学肥料を使い、耕起と除草もしてきた。だから、そうした農法に応じて、畑の〈生態系〉もできあがっていたはずである。そこに草が生え、枯れ草が表面を覆う。すると、それまではいなかったり、少なかったりした虫が住みつくようになる。ところが、先住者の虫にとっても環境はむしろ改善されたわけだから、かれら〈先住虫〉たちも増殖するはずである。だから、自然農法を始めた当初は、生物のバランスからしても、土壌の状態からしても、「害虫」には好環境の、野菜にとっては悪環境の、〈生態系〉ができあがっている、ということであろう。
それに加えて、現在、畑では、自然農法畝と慣行農法畝が混在している。一方では、無除草を励行しているのに、他方では、耕起して化学肥料を施している。「害虫」にとっては、住処と餌場が共に与えられている状態である。自然畝から慣行畝の野菜に虫が「出撃」する。逆に、慣行畝にとりついた虫が自然畝に隠れ住み、今度は自然畝の野菜を食い荒らす。
今秋、自然畝の隣に、慣行農法でダイコンを蒔いた。すると、双葉のダイコンにダイコンサルハムシがたかって来た。放っておけばダイコンが消滅してしまうだろう、と思われるほどの勢いであった。本葉が出るまでせっせと虫取りをしたおかげで、なんとか難を逃れたが、意外な出来事であった。ダイコンサルハムシは名前こそダイコンに関係あるが、少なくとも私の経験からすると、ダイコンに大きい被害を与えることはない。ダイコンサルハムシの好物である白菜がなかった(ダイコンが双葉のときには、まだ白菜を直播きしていなかった)こととも関係あるのだろうが、サルハムシの「襲撃」は、私の頭の中では、今春以来の自然畝での虫害に重なる。隣の自然畝が、慣行畝のダイコンへの「出撃基地」を提供したように思えるのである。
また、秋の虫害は、キャベツカリフラワーブロッコリーを作っていた慣行畝の周囲に多発した。夏に定植したキャベツなどは、9月終わりには、蝶除けの寒冷紗が窮屈なほどに成長した。区画の違う畑の自然畝でやはりキャベツなどを作っていたので、それと比べながら、化学肥料を使う慣行農法では作物の成長が非常に、むしろ異様に、よいのに、あらためて驚いたほどである。キャベツ類の主たる害虫の蝶は、例年なら9月終わりになると少なくなる。そこで、野菜たちに自由な空間を与えてやろうと寒冷紗を外した。しかし、今年は去年と同様、秋が進んでも暖かい。蝶は、まるで化学肥料のにおいに引きつけられるかのように、寒冷紗を外した畝に舞うようになった(それに対して、自然畝には蝶は少ない)。
虫に食われた下仁田ネギ
蝶の幼虫の食害にあった下仁田ネギ。左の畝に、ブロッコリーとカリフラワーがあった。
カリフラワーとブロッコリーは、去年同様、青虫に無残に食い荒された。キャベツの方は、それでも、三分の二ほどが生きのびた。キャベツは結球しはじめると、虫がついてもあまり影響がないが、寒冷紗を外したときには、すでに葉が巻きはじめていたからである。しかし、被害はキャベツの畝に限らなかった。隣の畝に蒔いたホウレンソウが双葉のときに食害され、数が減り、ホウレンソウの隣に蒔いたビタミン菜は全滅した。虫害があまりにひどいので、カリフラワーとブロッコリーは切り払って、田圃に捨てた。すると、虫に食われることなどまずないネギが食べられてしまったのである。畝に取り残された虫が嫌々ながらも生きるために食べたのであろう。さらに虫害は隣接する自然畝にも波及してきたのである。一番近い畝にまいた赤カブの被害はすでに書いた通りである。
以上の2例から察するに、自然畝と慣行畝の混在が虫害の原因の一つである、と言って間違いなかろう。ただ、推測にすぎないが、二種類の畝の混在は、慣行農法から自然農法への移行期にとくに問題になるのであり、自然農法の安定した畑で、一時的・部分的に慣行農法的な栽培を行っても、大きな問題は生じないなのではないか。自然農法への移行期には、自然畝の〈生態系〉はまだ慣行畝のものを引きずっている。だから、ちょっとしたきっかけを与えられれば、自然畝でも慣行畝の〈生態系〉が再現する。しかし、1区画全体が自然農法の熟畑になると、慣行畝が一時的・部分的に現れても、その〈生態系〉の空白は、自然農法で安定した〈生態系〉全体を脅かすことはない。むしろ、〈生態系〉の一部として取り込まれ、慣行畝であっても慣行農法での虫害は発生しにくいのではないか。

「害虫」の発生が多いと、慣行農法に戻したくもなる。しかし、上に分析した通り、これは移行期特有の問題であり、自然農法が熟して来ると解消する問題であろう。そう納得して、自然農法を続けよう。乗りだした船、慣行農法の陸地が遠く離れつつある今となっては、とことん漕ぎ進むしかないではないか。

 
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