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2001-10-07  いままでのわざをどう移行させるか

今秋から自然農畝で作る作物が多くなった。すると、作業の仕方をどうするか、という問題が生じてきた。種を蒔くときは、いままでは、施肥と耕起のあと、畝をレーキでならしてガンギを切り、播種する、という手順で作業を行ってきた。

ガンギの切り方は基本的に縦ガンギである。この仕方はいままでとは大きく変わらない。シュンギクを例に挙げて話を進めることにする。
ガンギを切る
右は、切っている最中のガンギ。左は、種を蒔いた上にスクモを振りまいたガンギ。黄色いのがスクモ。
まず、ガンギを切るところの草を左右に寄せて、地面を露出させる。それから、平鍬で3pほど表面を削り、削った土を細かく砕く。すると、蒔き床ができる。
今までの耕起した畝では、ガンギを、種を蒔く前と蒔いた後に、鍬の裏で鎮圧していた。鎮圧するのは、ひとつには、土粒間の隙間を潰して、土中からの水分を上がりやすし、また、土の表面からの水分の蒸発を抑えるためである。もうひとつには、−これは蒔く前の鎮圧に関するが−蒔き床を平にするためである。蒔き床に凸凹があったり、亀裂があったりすると、とくに種がカブのように小さい場合、凹や亀裂に入り込む種があり、発芽率が悪くなる。ただ、不耕起畝の場合、水持ちがいいので、その点を考慮すれば鎮圧に神経質になる必要はないと思われる。

シュンギクの場合は、土を細かくしたあと、多少凸凹が残るガンギにバラバラと蒔き、一回最後に鎮圧した。シュンギクは好光性(注)の発芽をするので、蒔いた後の覆土は必要ない。覆土するにしてもごく薄くしないと(ふるいを使うと、均一に薄く覆土できる)、発芽が悪くなる。ところが、覆土をしないと種が乾燥しやすくなり、水分不足で発芽しないことがある。そこで、私はスクモ[もみ殻]を播種後のガンギに撒く(注)。乾燥が続く時には、さらに灌水したりしないと、高い発芽率は望めない。しかし、今秋のシュンギクは、そこまでしなくとも期待通りに発芽した。
シュンギクについては覆土作業は問題なくできた。しかし、覆土しなければ発芽しなかったり、覆土した方が発芽率がよい種の場合は、問題が生じて来る。覆土用の土をどこから手に入れるか、ということである。いままでは、レーキで畝をならすとき溝に落ちる土を、覆土に利用していた。溝の土が細かく砕かれているときにはそのまま、そうでない場合には、鍬の裏で叩いて細かく砕き、土を鍬の表に乗せる。土の量は種によって加減する。それから、鍬をガンギ上で、ガンギの方向と垂直に交差するように構え(写真の鍬はガンギに平行に位置している)、ついで、ガンギの方向に沿って、向こうから手前に引き寄せるように動かして、土をガンギに振りまく。このやり方は、慣れは必要であるが、楽で効率的な覆土法である。自然農法にして、これができなくなった。溝は踏み固められているので、じゅうぶんな土はない。覆土に適した土は、草を寄せて作ったガンギにしかない。だから、種を蒔いたあと、手でガンギの土を振りかける。しかし、これでは時間がかかる。それにいままでの覆土のわざを捨ててしまうことになる。
むろん、いままでのわざを捨ててしまうところに自然農法はなりたつ、と言い切ってみることもできよう。しかし、私は何もかも捨ててしまうことに抵抗がある。山や原野に種を蒔いて収穫しようとしているのではない。畑を開き、畝立てして、ガンギを切ることがすでに、反自然であり、自然状態の攪乱、わざなのである。自然農法は〈原始〉への回帰ではない。〈原始〉への回帰は不可能である。自然農法は、いままでの〈人為的〉農法の前に存在するのではなく、その向こうに存在する。〈人為的〉農法を廃棄するところではなく、「止揚」するところに成立する。だから、やはりひとつの人為、ひとつの農法なのである。あくまでも、自然「農法」なのである。とすれば、いままでのわざは継承され、「止揚」されなければない。わざに沈殿している「歴史」は、いまに息づかなければならない。
ともかく、何とかいままでの覆土の仕方を生かせないか、と考えた。ひとつ考えているのは、次のガンギの土を利用して覆土し、最後のガンギは溝の土を使う、ないしは、最初のガンギの土の一部をよけておいたのを使う、という方法である。この方法であれば、覆土に適した土を必要量手に入れることができ、また、土を畝の外から入れたり、外に出したりしなくても済む。鍬の利用を工夫すれば、手間も省ける。しかも、いままでのわざを自然農法に移行させることもできる。

私は細かいことに注意が向きすぎ、また、過去にこだわりすぎるのかもしれない。しかし、私が、私と同じ田畑で農耕をしてきた人たちが、やってきたこと、残したものを、私には簡単には捨てることはできない。捨てるべきではない、とも思っている。

 



好光性、好暗性、変温性

種子は発芽時に光が必要かどうかによって、好光性と好暗性に区別される。ニンジン、シュンギクなどのセリ科やゴボウ(キク科)は好光性である。ネギ、ニラなどのユリ科とか、ナス、ピーマン、トマト、唐辛子などのナス科は好暗性である。好光性の種子は覆土をしないか、薄くする。好暗性の種子は確実に覆土する。タマネギやネギを蒔いた後は、覆土した上に、乾燥防止のため藁を敷くが、好光性の種はこんなことをすれば、決して発芽しない。
なお、変温性という奇妙な種がある。温度変化がないと発芽しない、というものである。ナスはその類とされている。しかし、経験上、適期に蒔けば、特別な注意は必要でない。ナスは春に蒔くが、その時期はまさに変温性のある季節だからである。だから、変温性の種子とは、日本のような気候では、昼夜の温度差がある春秋に蒔くべき種ということなのだろう。[本文に戻る]

 
好光性の種の発芽率を高めるには

好光性の種の乾燥を防止し、発芽率を高めるためには、他にも、新聞紙や透明な被覆資材で覆うというやり方もある。レタスなどを育苗する場合には、苗床の面積が狭いので、新聞紙で覆う。ただ発芽するとすぐに取り除くようにしないと、苗が徒長するので注意しなければならない。また、ニンジンなど広い面積に蒔く場合には、透明な被覆資材を使う。網状のものではなく、目の詰まった、保湿性、吸湿性のあるものがいい。被覆資材を使うと、乾燥防止だけでなく、激しい雨にたたかれて、種が流れるのを防止する効果もある。また、透明なので、除くのが遅れても、作物は徒長しない。[本文に戻る]

 
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