てつがく村の入り口に戻る
  日  々  想  々 2000年  次の記事
記事一覧
前の記事
> 農耕の合間に >
 
豆の季節、五月に万歳! 2000-06-05

5月は豆の季節である。11月の始めに蒔いたえんどう豆と空豆が、小さな草姿のまま冬を耐え、春に一気に成長して、5月の空に実を結ぶ。春に農作業を再開してはじめて豆を口にする月である。野にもカラスノエンドウやスズメノエンドウが群れて実を結ぶ

カラスノエンドウやスズメノエンドウは、小さいころ、黒く熟した種を口に含み、細い竹を吹き矢の筒にして、吹き飛ばしては遊んでいた。畑の豆は、と言えば、もちろん、口に含むだけのものではなく、季節の味覚になる。

エンドウには、皮ごと食べられるものと豆だけを食べる実エンドウがある。皮ごと食べられるものは、種苗会社によって「スナップ・エンドウ」とか「スナック・エンドウ」とか呼ばれているが、村では「メナシ」と呼ぶ。語源は分からない。ただ茹でるだけでも、ビールにも日本酒にも合うつまみになる。(皮も食べるエンドウには、絹莢エンドウもあるが、これはすぐに皮が硬くなるので、私の畑では作っていない。)

実エンドウは「ブンドウ」とも呼ぶが、この呼び名は、辞書にも載っているところを見ると、村特有のものではないようである。ふくらみかけた実は、生でも甘味がある。ご飯に炊き込むと5月の匂いがして美味しい。(もっとも、小さいころは、この匂いとグシャッとした食感と生臭い味が苦手で、豆ご飯は嫌いだった。)

空豆は、村では「エンドウ」と呼ぶから、紛らわしい。或る年代以上の人たちには、メナシ−ブンドウ−エンドウという語彙体系がしっかりと確立しているので、彼らと話をすると頭が混乱する。空豆は、小粒のものと、「一寸」と呼ばれる大粒のものがある。小粒のものは、完熟したものを収穫して、煎っておやつにしていた。小さいころにはよく食べたものである。豆にはよく小さな穴があいていて、「ここにゾウがおる」と言うのを聞いて不審に思っていた。なぜあんな大きな象がこんな小さな穴に入れるのだろうか、と。ゾウとは、じつは、マメゾウムシのことである。「一寸」のほうは、茹でて食べる。実にカネが入ると、皮は硬くなってしまうが、それまでは皮ごとでも食べられる。(「カネ」とは、お歯黒に使うカネ(鉄漿)のことであり、「カネが入る」とは、実と皮の結合部分が、お歯黒を塗ったように、黒くなった状態である。熟度が進むとこうなる。)これをつまみにビールを飲めば、5月がいっそう爽やかになる。私の畑では、今では、「一寸」しか作っていない。おやつに空豆は、母親などは懐かしがって、ときに塩をまぶしたものを買ってくるが、いまどき子どもは見向きもしないからである。

豆は5月から、作り方によっては10月位まで、若い豆が食べられる。6月は梅雨豆(インゲン)。秋も、梅雨豆と同じ品種の豆が食べられる。モロッコ豆(平莢エンドウ)は春から秋まで収穫できるし、黒豆などの枝豆も秋には食べられる。それにしても、長い間待ち続けただけに、5月の豆が一番印象深い。

[先頭に戻る]


てつがく村
depuis le 1er avril 2000