てつがく村の入口 | てつ人の雑記帳
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村便り

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村便り:2006-09-30(明日は雨?…!)
投稿日:2006-10-02(月)

百姓は天気次第。明日雨ガ降ル聞ケバ、急イデ野良ニ出ル…

 土曜日は子どもの運動会だった。だからその日一日は農作業を休む予定にしていた。そして日曜日の天候予報は曇り後雨だったが、午前中ぐらいなら作業はできるだろう、と踏んでいた。ところが、昼休みに帰宅して電話で最新の天気予報を確認すると、日曜日は朝から雨。そこで、子どもの出場番組が終わり次第、村に向かった。

 野菜はこの一週間、作業は進捗した。農繁期には、週末に畝を作り、平日の早朝や夕方に種蒔きや定植をすることがよくある。畝作りには時間がかかるが、種蒔き・定植は短時間でできるからである。この一週間で言えば、月曜日と火曜日の早朝に、春菊高菜(いずれも種蒔き適期のぎりぎり)、およびビタミン菜を蒔いた。さらに水曜日の夕方、9月3日に種蒔きしてベランダ育苗していた白菜を75株定植した(定植株数が多いのは、冬の間、二回白菜を漬けるため)。朝は眠気に打ち勝って薄暗いうちに起き出さなければいけないし、夕方は沈む太陽とのせわしい競争になるが、二足草鞋の生活では、平日でも時間帯によって草鞋を履き替えないと追いつかない。

 野菜の種蒔きは進捗しはしたものの、急いで種蒔きをしなければいけない野菜がまだ残っている。小一時間かけて3時半に畑に到着し着替えをすると、まず今週蒔いた畝を確認した。春菊と高菜は順調に発芽している。しかし一日遅れで蒔いたビタミン菜は発芽にむらがある。ここのところ降雨がないので、発芽しやすいアブラナ科の野菜も畝によっては発芽が悪い。しかし、明日の雨で遅れているところも一斉に発芽するだろう。

 今日の種蒔きはロケット(ルッコラ)と水菜。水菜は10月初旬までなら播種適期に入っているが、できるだけ早く蒔きたい(*)。今年は冬の菜っ葉として今まで作っていた小松菜の栽培を中止した。その代わりにビタミン菜をいつもより多く蒔いたが、さらに水菜の間引き菜を利用して小松菜の穴を埋めたい。水菜も多めに蒔いた。
(*)気温が下がり日照時間が短くなる秋は、種蒔きが1日遅れると収穫が1週間遅れる、と言われている。白菜は播種適期をすぎて蒔くと結球しないほどである。

 畑作業が終わると田んぼへ。木曜日に休暇をとって作業をしたものの、まだムナクトを切っていない田んぼが残っている。そんな田んぼは雨が降ると水が溜まってしまう。稲刈りを間近に控えた今の時期は、それは避けたい。都合6箇所のムナクトを切り終えると、日は西の山に隠れたばかりであった。

種を蒔いた畝
高菜と春菊の種蒔き。
 畝の方向と直交する方向に、平鍬で表面の土を軽くすくいのけるようにして蒔き床を作る。ついで鍬の裏側を押しつけるようにして土を鎮圧する。すると、細長い長方形に窪んだ蒔き床ができる。そこに条状に種を落とす。乾燥している時には、種蒔きの前に蒔き床を水で湿らす。プラスチック製の担桶[たご]が見えるのはそのため。ひしゃくでたっぷりと水をやる。
 高菜のように小さな種の場合、篩で土をかけてやる。大根ぐらいの種になると、鍬に土を載せて蒔き床に振り落とす。再度、土を鎮圧して、もみ殻を振る。もみ殻は乾燥防止のため。(「天然動物性石灰」-牡蠣殻-と書かれた袋はもみ殻入れ。)
村便り:2006-09-28(田んぼの落水)
投稿日:2006-09-29(金)

田植え前に田んぼから水を落とさなければならない。我が家の田んぼの特殊事情などを説明しながら、落水作業を簡単に報告する。

 稲刈りの前に田んぼから水を落とす。水があれば作業の邪魔になるからである。排水のいい田んぼであれば1週間前に、悪い田んぼは2週間前に作業をする。我が家の田んぼの場合、ほとんどは2週間前の作業になる。
 今の稲刈りは機械を使う。コンバインを使って、刈り取りと脱穀を同時におこなうか、バインダーを使って、刈り取りと結束をおこなう。バインダーは重量が90kgほど、コンバインになるとバインダーの十倍は重い(最軽量のコンバインだと、五倍の重さ)。手刈り時代にも、田んぼの地面が乾いているのにこしたことはないが、少々水が残っていても、刈り取った株の上に足をのせて刈り進むことができた。しかし、機械にはそんな芸当はできない。だから、落水はきちんとおこなう必要がある。

 28日(木)は有給休暇をとって、落水作業をおこなった。有給休暇は年に20日あるが、授業や会議のある時は、特別な場合を除いて、利用しない。10月に入れば授業が始まる。そこで9月の最後の週が、遅れ気味の田んぼの作業をするために休暇をとる最後のチャンスなのである。

田んぼ概念図
 我が家の田んぼの一枚の概念図を使って、以下で使う言葉の説明をする。

 田んぼは、太い実線で囲まれた部分(左側を向いたマッコウ鯨のようにも見える)である。地形は、図の上から下へと傾斜している。
 「横手」とは、田んぼの内部に作られた水路であり、図では太い実線と点線とで囲まれた水色の部分。「横」という文字はあるが、この田んぼのように田んぼの《上》辺を通る場合でも「横手」と呼ぶ。この横手は、昔は入排水路であった。横手の左上から、上の田んぼの横手を通じて水を入れていた(したがって、上の田んぼの横手は、通水路でもあったことになる)。しかし左側の井手[共有の用水路]をコンクリートに改修したさい、新たに「あて口」すなわち、入水口(左上の入水口)をつけたために、いまは排水路としてしか機能していない。
 「ムナクト」とは排水口を意味する。漢字をあてるとするとおそらく「水口」だろう。この田んぼには二ヶ所、ムナクトがある。
 この田んぼは、二つの井手に関係している。全体で700㎡あるが、500㎡が左の井手から、200㎡が右の井手から水を引くことになっている。しかしそれはあくまでも建前で、左の井手が枯れたときには、水量の豊富な右の井手から田んぼ全体に水を入れることを、右の井手の関係者から黙認されている。
 「ウワコウダ」は田んぼ内部の上側(地形全体の傾斜からして「上」)の部分をいう。

 落水は、ムナクトを切り開くのが基本であるが、それだけでは十分に排水されない田んぼがある。傾斜地の田んぼの場合、ウワコウダがダブ[湿田]であることが多い。ダブには排水路として横手を通す。しかし、横手は稲のシーズンが終わるころには泥が溜まったりして水の通りが悪くなる。だから、きれいに浚っておかないと、ダブの部分からいつまでも水が引かない。
 我が家の場合、ほとんどの田んぼが大なり小なりタブなので、落水作業は、横手浚いに時間がかかり、また、泥と水相手の作業のため泥まみれになる。我が家の田んぼのような場合、だから、稲のシーズンは泥仕事(代掻きや田植え)で始まり、泥仕事で終わる。

 横手を浚うと泥を棲息地とする生物が出てくる。イモリやドジョウである。今回はなぜかオタマジャクシが出てきた。秋にオタマジャクシはミスマッチのように思えるが、生物学的はどうか知らない。また、子亀も出てきた。シーズン中ときに亀を見かけることがあるが、この子亀は横手に棲息していたのだろうか。お節介だとは思ったが、亀が出てきた横手は干上がっていたので、水のある横手に運んでやった。

浚った横手
(クリックで画像の拡大)
 泥を浚った横手。
上の概念図でいうと、横手がほぼ直角に下に向かって曲がる手前の部分。右の農道側から写した。この横手は、シーズン中は水を確保するために直角に曲がるところで堰きとめてある。だから、シーズン中はいつも水がたまっている。しかし、堰を開放しても、完全に干上がることはまれ。
切り開いたムナクト
(クリックで画像の拡大)
上の概念図でいうと、左側のムナクトを切り開いたところ。シーズン中はここは土で塞いである。
村便り:2006-09-24(一日は短い!)
投稿日:2006-09-25(月)

一日は短い!そんな思いで農作業の一日が終わる。

 週末は畑仕事。野菜の種を蒔くためである。
 週末に入る前は、土曜日は畑仕事、日曜日は田んぼ仕事と目算を立てていたのだが、いざ始めてみると二日とも畑仕事にとられることになった。田んぼでの仕事は、稲刈りにそなえて田の水を落とす作業。稲刈りは10月の第二日曜日あたりと第三日曜日あたりを予定しているので、最初の稲刈りを予定している田んぼはそろそろ落水しなければいけないし、それから一週間後に稲刈りをする田んぼも周囲の溝を浚って下準備をしないと追いつかなくなる。だからといって、野菜の種蒔きものんびりとやっていられない。結局、緊急度を考慮して、畑仕事を選んだ。

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(クリックで画像の拡大)
 ふと交尾中のカマキリが目に入った。一匹の雌カマキリに二匹の雄カマキリがとりついて、ムカシヨモギの枝に止まっていた。秋晴れのさわやかな日など彼らの眼中にはない。まるで凝固しているようであったが、彼らのなかでは生の最後の炎が、静謐な激しさで燃え上がり、生の継承の営みが行われていた。
 自然全体の季節的な移ろいにあって己の生の時節をあやまたず見抜く。その時節を懸命に生きる。それを本能と言い切ってしまうのは皮相的すぎはしないだろうか。本能から《自由》になった知性の、むしろ戯言ではあるまいか。全体のなかで己の時節を生きる、そんな農の営みでありたい。
 畑には夏の間に草が繁茂してしまった。これには相応の理由がある。去年の夏あたりから、我が家の農業事情が変化し始めた。ひとつは、それまで草取りなどの作業をときおり手伝ってくれていた老母の手があてにならなくなったことがある。その後継として私の家族(すなわち、ma femme)に多少の期待をかけたが、家族は、町生まれ町育ちのため、老母に輪をかけて百姓のことは知らない。しかも、私と一緒に農地から離れたところで暮らしている。したがって、作物の収穫以外は、ほとんど期待できなかった(これからも期待できないだろう)。もうひとつは、今年から稲作を委託なしで、すなわち私《一人》でやることになったことがある。稲作は、自立(定年後を予定していた)を目指して、少しずつ委託作業を減らしてきたが、いたしかたない事情で、自立を今年まで前倒しせざるをえなくなった。だから、農業事情は今年から私にとって未経験の領域に入った。掛け値なしの《一人農家》になった。その無勢の《一人》の周りで草がはびこった、というわけである。

 丸一日作業をしたとしてもそんなに多種類の野菜を植えつけできるわけではない。土日の二日では、カブ(白カブと赤カブ)の種蒔き、ネギ(九条ネギ、下仁田ネギ)の定植、ワケギの植え付けである。むろん種蒔きや定植以外にも、相変わらず草刈りと耕耘、草焼きなどの作業もある。日曜日の最後には、暗くなるのと競争で白菜を定植する畝を耕耘して畝立てした。残った野菜は、今週中に早朝、出勤前に畑に立ち寄って、少しずつ植えるしかない。

 一日が短い!そんな思いをもたいない日は《一人農家》にはない。悲痛な叫びのようにも思えるが、裏返せば、生の充実からのほとばしりでもある。
村便り:2006-09-21(タマネギ播種など)
投稿日:2006-09-22(金)

有給休暇をとって農作業。畝作りとタマネギの播種。

 あと10日ほどすると新学期が始まり、サラリーマン稼業が忙しくなるので、農作業の遅れを少しでも取り戻すため、一日の有給休暇をとって農作業をした。

 大根は9月9日に蒔いたが、他の野菜はまだ種蒔きをしていない。そもそも畝がまだできていない。夏の間繁った草は9月に入ってから刈ったが、その草は畝に転がしたまま。だから、草をまず処理してから、耕耘機で耕耘した。
 草の一部は新たに作った自然畝[自然農法を実践する畝]を覆うために使った(この件に関しては近いうちに「自然農法爾」に簡単に報告する予定)。残りの草は燃やした。草木灰は肥料として畑に撒く。

 今日の農作業のもう一つの目的はタマネギの種を蒔くこと。
 タマネギは、9月20日から23日(秋分の日)を目処に種蒔きをすることにしている。この日を基準にして、あまり早く蒔くと寒くなる前に苗が大きくなりすぎて、6月始めの収穫期に薹がたつ危険性が強くなる(ただし、普通のタマネギより一カ月早く収穫できる極早生のタマネギは9月始めに蒔く)。しかし、遅く蒔くと、小さいまま冬になり、寒さにやられて消えてしまうことがある。理想は、葉数が三枚程度の健康な苗を育てて定植することである。その大きさに育てるための播種期が、村では、経験的には、秋分の日あたりになる。

 作業が済み耕耘機を洗い終わったのは19時前であった。
 耕耘機やトラクターは使ったらできるだけ(「必ず」に近い頻度で)その日のうちに洗う。といっても、乗用車のように全体を洗うのではなく、足回り、刃回りを重点的に洗い、付着している土を落とす。土が付いていると金属部分は錆びが進行しやすいし(いずれにしても、錆は避けることはできないが)、タイヤのゴムは傷みやすい。むろん、鍬も土を洗い流す。

 朝、畑に着いたのは9時で、帰途についたのは19時。昼食に一時間休んだから、おおよそ9時間働いたことになろうか。冬(11月から2月まで)を除いて、週末に一日農作業をすると、8時間から10時間作業するから、今日は平均的な作業時間ということになろう。
村便り:2006-09-18(台風13号通過後)
投稿日:2006-09-19(火)

台風18号通過後の田んぼと畑

 台風13号が、17日から18日にかけての夜半に最接近しながら日本海に抜けていった。深夜、間歇的に聞こえてくる凄まじい風の音で何度も目が覚めた。雨も同時に降っていたはずであるが、コンクリート製のアパートに住んでいる私の耳には雨の音は届いてこない(ふだん雨の気配は、アパートの前を走る車のタイヤ音から聞き取っている)。台風が通過する間、私は堅固に守られた空間で夜を過ごしていたが、同時に畑や田んぼが気になっていた。
 台風13号は、強い勢力と西側を通過するコースとから二年前の台風18号を思い出させた。その時は南からの強風で大きな被害が出た。村の主要道ではコンクリート製の電柱が数本傾いた。わが家では、小屋が吹き飛び、一段低い畑に落ちて崩れた。畑では、まだ若い柚子の木は倒れて根の一部が露出し、屋敷では、彼岸桜が大きく傾いた。(柚子の木は元気になったが、彼岸桜はこの夏に枯れてしまった。)

北に傾いた稲
(クリックで画像の拡大)
北向きに傾いた稲。その下は休耕田で、里芋と黒豆とソバを栽培している。

ソバ
(クリックで画像の拡大)
総倒れのソバ
 朝起きて、外を見ると、アパートの前に立っている大木の、太い枝が折れていた。私は朝食を済ますと、車で村に向かった。

 まず田んぼを見まわった。実りはじめた稲は、北向きに大きく傾いている箇所もあったが、おおむね強風に持ちこたえていた。ただ、ヒエを刈り残していたところは、稲よりも背丈が高く、しかも脆弱な茎のヒエが倒れ、稲を巻き添えにしていた。(台風対策という意味でも、ヒエはきちんと取り除いておかなければいけない、ということなのだろう。今後の教訓としよう。)
 休耕田で栽培しているソバは、さすがに全部が北向きに倒されていた。しかし、いまは生育の途上にあるので、姿勢を立て直しながら成長をつづけるであろう。

 屋敷周りの畑は、キャベツ類(キャベツ、ブロッコリー、カリフラワー、芽キャベツ)を覆っていた防虫ネットがはがれているところがあった。8月終わりに定植したので、まだ葉数も少なく背丈も低い。ネットが覆われたままであれば、強風の影響は緩和されるが、ネットがはがされると、強風に直接さらされる。実際、茎が強い力で引き回されて根元にすり鉢状に隙間があき、葉が萎れているものもあった。そのようなものは根元に土を寄せてやったが、どこまで勢いを取り戻すだろうか。

 ともあれ、私がコンクリートの壁のなかで眠っていた間、田んぼと畑では生き物たちが暴風雨に懸命に耐えていたのである。耐えながら命を燃え上がらせていたのである。
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