てつがく村の入口 | てつ人の雑記帳
<< 2024-11 >>
SunMonTueWedThuFriSat
     12
3456789
10111213141516
17181920212223
24252627282930


村便り:2012-03-19(月) (踏み込み温床)
投稿日:2012-03-22(木)

 明日は春分の日。「暑さ寒さも彼岸まで」だとすれば、温床は次第に要らなくなるころともいえる。 温床育苗を始めたころは、3月始めに温床...

 明日は春分の日。「暑さ寒さも彼岸まで」だとすれば、温床は次第に要らなくなるころともいえる。

 温床育苗を始めたころは、3月始めに温床を作っていた。3月前半はまだまだ寒い。最低気温が氷点下になる日もある。最初のころは踏み込む藁、すなわち《発熱剤》、の量が少なく、また、温床を防寒する工夫も分からなかったので、せっかく発芽しても、寒さで枯れてしまうことがあった。そこで、温床作りを半月ずらして3月半ばにした。いまであれば、踏み込む藁の量が多くなり、また、防寒の方法が分かってきたので、畑のあるところに住んでいてこまめに温床の世話ができさえすれば、3月頭から温床育苗を始めても失敗しないとは思う。しかし、通いの兼業農家という身を考え、無理はせずに、いまでも3月半ばから開始のスケジュールを踏襲している。

 今日は午前中を使って、温床に藁を踏み込むことにした。



(クリックで画像の拡大)
骨組みに藁を網つける作業を始める。第一温床。3月16日。温床の大きさは、幅80㎝、長さ260㎝、深さ(高さ)60㎝。
 

(クリックで画像の拡大)
藁を編みつけ外枠を完成。左が第一温床、右が第二温床。第二温床の大きさは、70㎝(幅)×200㎝(長さ)×45㎝(深さ)。
 踏み込み作業だけでたっぷり半日はかかるので、それまでの作業はあらかじめ済ませておいた。3月15日と16日には午前中、温床の外枠作りをした。竹で骨組みをつくり、それに藁を編みつける。温床は二つ作る。ひとつは藁をたっぷり踏み込む温床(第一温床)。そこでは、高温が必要な野菜の育苗をする(トマト、ナス、ピーマン、アマトウガラシ、サツマイモなど)。もうひとつは、藁を踏み込みはするが、発熱剤よりはむしろ断熱剤として利用する温床(第二温床)。こちらでは、里芋の芽出しを行い、空いたスペースは第一温床で育苗している苗が成長した際に、その移動先として利用したりする。

 さらに3月17日の夕方には、踏み込む藁を田んぼのワラグロから畑に運び込んだり、藁カッターに給油したりして、すぐにでも、藁の踏み込み作業が開始でき、また、作業が完了したらそのままビニールで被覆できる状態にしておいた。



(クリックで画像の拡大)
手前の藁カッターで藁を裁断し、その藁を温床に踏み込む。
 

(クリックで画像の拡大)
温床の完成。
 第一温床は、踏み込む藁は200束(稲刈りのときにバインダーが結束する束を1束と勘定する)。藁を数㎝重ねると、発火剤として鶏糞と米糠をその上から撒き(藁が発酵するにはチッソが必要である)、如露で水をかけて湿らせてから、足で踏む。その過程を何回も繰り返して、また、4時間ほどかけて、最終的には50㎝ほどの厚さに藁を踏み込む。じつに単調な作業である。

 百姓を始めたころは、ナスやトマトやピーマンなどの夏野菜の苗は購入していた。父がそうしていたからである。しかし、父はサツマイモの苗は自分で作っていた。また、里芋は芽出しをして定植していた。そのために小さな踏み込み温床を作っていた。そしてわずかに空いたスペースにナスを蒔いて、育苗していた。私が温床を作り始めたのは、父と同じ目的だった。しかし、さらに夏野菜の育苗もするようになった。(このあたりの事情は、本格的に温床育苗したころの記事「天地人籟:☆ 2003-03-20 ☆ 踏み込み温床」に詳しい。)


梅の花の蕾
(クリックで画像の拡大)
梅の花の蕾。
 今年は梅の花の開花が遅いのだろうか。畑の隅にあるこの梅は比較的咲くのがおそいが、彼岸が明日というのに、まだ開花していない。しかし、蕾の状態からして二、三日のうちに開花が始まるだろう。
 夏野菜の苗は高額ではない。手間と労力と時間を考えれば、購入する方が自分で育苗するより《安上がり》だろう。今の時代に、自分で、しかも昔のやり方で、育苗をするのは酔狂でしかあるまい。踏み込み作業をやっていると自分でもうんざりしたりする。それでもなぜ温床育苗をつづけているのか?
(ここまで書いて中断しました。書きついでから掲載しようとすると、結局は掲載できなくなる可能性があるので、途中ですが、このまま掲載します。)
村便り:2012-03-08(木) (ジャガイモを伏せる)
投稿日:2012-03-09(金)

芽出し(畑):ジャガイモ]シーズンはジャガイモの芽出しから始まる 私の農耕のシーズンは、たいていジャガイモを(芽出しのため)伏せる...

芽出し(畑)ジャガイモ]

シーズンはジャガイモの芽出しから始まる
 私の農耕のシーズンは、たいていジャガイモを(芽出しのため)伏せることから始まる。去年は3月9日にこの作業をしている。ジャガイモは直植えもできるが、ひとつは、畝を作る時間をかせぐため、またひとつは、霜対策のため、私は伏せている。

 週末は土曜日、日曜日ともプライベートな予定があり、また、月曜日は時間に拘束される業務が入っているので、今日、作業をすることにした。朝、種芋を切り分け、昼間、切り口を乾かしておいてから、夕方、伏せた。


(クリックで画像の拡大)
(毎年、同様の画像ですが…)

切ったジャガイモの種を乾かす。
 私は種芋を50gに切り分ける。また、小さい芋は切り分けないが、片隅を切り落とす。芋は傷つけられることで、発芽へのきっかけをつかむようである。生き物は逆境におかれると次世代を残そうとする力が強くなる、ということだろうか。
 

(クリックで画像の拡大)
ジャガイモを伏せる。
 土を被せた上に、防寒、防霜のために藁で覆う。
 

(クリックで画像の拡大)
藁で覆ったところ。
浴光催芽
 百姓を始めたころ、栽培技術を知るために本とか雑誌とかをよく読んでいた。そのなかに、ジャガイモの植え付けについて「浴光催芽」というやり方を書いたものがあった。植え付け前に数日、日光にあてると、強くて太い芽が出る、というものである。日光にあてるのは、切り分ける前か後かは、本文には書いてなかったが、イラストには、切り分けた種芋を太陽にあてている様子が描いてあった。秋ジャガでその方法を試したことがある。切り分けてから数日、太陽にあてた。夏の日差しは強い。種芋は切り口から水分を奪われ、干からびてしまった。その種を伏せはしたが、腐ってしまった。

 推測するに、本の筆者は、まるのまま日にあてていたが、イラストレーターは、切ってあてた、と解釈してイラストを描いたのであろう。泥縄式に農作業を進めるのが私の常なので、種芋をゆっくりと日光浴させる余裕がない。試したのは、失敗したその夏だけである。だから、浴光催芽に効果があるかどうかは、私には確言できない。

品種 考
 伏せた品種は、メークイン、男爵(以上、購入種)、roseval系、普賢丸、デジマ、ニシユタカ(以上、自家採種)。

 ここ数年は春と秋の二回、ジャガイモを作ることにしている。普賢丸、デジマ、ニシユタカは春秋兼用種。普賢丸は甘みがある、デジマはおいしい。この二つはわが家ではレギュラー的品種。しかしニシユタカはいまひとつ味がつかめていない。(ニシユタカはデジマを父として開発された品種、とのことである。)

 roseval系(rosevalを母として開発された品種なので、私はそう名づけているが、「シェリー」が登録品種名である)は何年も作ってきた。ところが、この冬、わが家のシェフが、rosevalはおしいくない、味がない、と不満をもらした。味がない(淡白な)のが、rosevalの味だ、と私は思いつきで反論したが、すこし考えてしまった。インターネットで調べると、食味は「上」と書いてある。すると、roseval系は自家採種で作っているので、そのせいで品質が変化したのか? あるいは、長期保存する(収穫期は七月である)と味が落ちる質なのか? 今年は収穫直後の味を確かめてみようと思う。ただ、インターネットの情報で気になるものがあった。この品種はフランスで開発されたものだが、その用途はでんぷん原料、というものである。そもそも食用に開発されたのではない品種ということである。それを、日本では、皮の色、形態、原産国を売りにして、食用として販売している。もしかしたら、このあたりに、わが家のシェフの不満の根拠があるかもしれない。

 さあ、シーズンに向けて、ようそろ!
村便り:2012-02-29(水) (名残雪)
投稿日:2012-03-02(金)

 今日は水稲苗の注文の締め切り日。私は苗は自分で作らず、農協の育苗センターに注文する。今年の田植えは5月27日に予定しているが、苗の注...

 今日は水稲苗の注文の締め切り日。私は苗は自分で作らず、農協の育苗センターに注文する。今年の田植えは5月27日に予定しているが、苗の注文はこの時期になる。注文書を提出するため、出勤途中で村の農協支店に立ち寄った。

雪景色
(クリックで画像の拡大)
雪景色。村の最高峰、灰ヶ峰(標高737m)の頂きは雲に隠れている。
 昨日の天気予報によれば、夜から明け方ころまで雪が降ることになっていた。しかし、自宅のあるH市市街は、朝起きて見ると、雨が降った形跡がある程度だった。ところが村に近づくにつれて雪が見えだし、村に入ると一面の雪! 曇り空の下の雪景色は、ふとスキー場に行くときよく通る県北の町と見紛うほどだった。村は山間部とはいえ、瀬戸内海から峠ひとつを隔てるだけなので、そんなに雪は降らない。しかも二月ももう終わりである。こんな雪をなんと呼ぶのだろうか。名残雪?

 先週末、村で、はじめて鶯の鳴き声を聞いた。もっと前から囀っていたのだろう、と思われるほどに上手な鳴き方だった。今の時節、冬と春が交錯しながら、ゆっくりと春が進んでいく。しかし、今日はさすがに鶯は木陰で体をふくらませて、じっと雪を眺めているだけだろう。


草刈り
(クリックで画像の拡大)
草刈り。
 この頃は雨が多い。春の長雨、菜種梅雨にはまだ早いような気がするが、こうも降られると、畑の準備ができない。先週末、空いた畑の草刈りをした。まだ草は伸びてはいないが、耕耘機で鋤きこむには少々成長が進んでいる。そこで草刈り機で地上部を払った。草を一緒に鋤きこむか、刈った部分は除いて鋤くか決めかねているが、雨が降ってはそもそも耕耘ができない。播種期が近づくと、地上部は鋤きこんでも腐りきらないから、除いてから耕耘しなければならないだろう。それにしても気を揉ませる雨、雪である。
村便り:2012-02-25(土) (カブトムシの幼虫)
投稿日:2012-02-28(火)

 春の畑作シーズンが本格的に始まる前に、畑の準備をする必要がある。冬の間にやろ.といろいろと予定を立ててはいたが、冬は足早にすぎてし...

 春の畑作シーズンが本格的に始まる前に、畑の準備をする必要がある。冬の間にやろ.といろいろと予定を立ててはいたが、冬は足早にすぎてしまおうとしている。気がつくと、三月も間近。

催花雨
 この二月は雨が多かったように思う(もしかしたら記憶違いかもしれないが)。春先の雨を「催花雨」というらしい。最近、はじめて知った言葉である。二月終わりの雨も、そういうのかどうか知らないが、この頃の雨は、冬の凍るような雨とは大分おもむきが違う。いわれれば、たしかに花芽を目覚めさせるようなやわらかさがあるような気がする。二月十九日は二十四節気の「雨水」である。水ゆるみ、草木が芽生える時節の謂であるから、二月下旬の雨を「催花雨」といっても、おかしくはないかもしれない。そのような風流な思いも、しかし、すぐに心をせき立てる。催花雨は畑をも潤し、草や野菜が目覚めるからである。

 今日は、まず踏み込み温床の整理をすることにした。三月の半ばに温床で育苗を始める。そのために、三月始めには温床の枠づくりをする。予定をそのように逆算してくると、そろそろ、昨春、作った温床を片づける頃になった。


イノシシに荒らされた温床
(クリックで画像の拡大)
イノシシに荒らされた温床。
 去年の3月24日。温床に種まきしたトレイを入れて、二日目のことである。
 
整理を始めた温床
(クリックで画像の拡大)
整理を始めた温床。
 育苗ポットはすでに整理を終わり、画像左下に写っている。温床の枠は外して温床の上においてある。まだ堆肥は掘り出していない。
 
カブトムシの幼虫
(クリックで画像の拡大)
温床にいたカブトムシの幼虫。
 一匹、飛び抜けて小さい幼虫がいるが、これもカブトムシか? もしかしたら、カナブン?
 
温床の堆肥の掘り出し
 去年の温床は二度、イノシシに襲われた。最初は、育苗開始間もないころ、二度目は、鉢替えした苗が大きくなり始めた初夏。イノシシは温床の堆肥のにおいに引き寄せられて来たのだろう。温床の枠を壊し、堆肥を掘り返した。獲物(ミミズとか虫の幼虫とか)を探したと思われる。二度目の来襲で、昨シーズンは、畑作する心がくずおれてしまった。そして、温床には、荒らされた苗をそのままにしておいた。その苗は先週、片づけた。そして、今日は、中の堆肥を掘り除いた。

 先週、温床の堆肥を少し掘り返してみた。堆肥にはよくカブトムシの幼虫がいる。じっさい、掘り返すと三匹の幼虫が出てきた。幼虫がいるとなると、経験からすれば、温床全体で二十匹はいる。今日は、その幼虫をすべて掘り出すつもりでもあった。ところが、幼虫は四匹しか出てこなかった。場所から考えて、三匹は先週の幼虫と同じものと思われる。一匹は極端に小さかった。幼虫がいることからして、ここに産卵したことは間違いないだろう。しかし、四匹しか残っていない。理由は私には分からなかった。


冬眠を覚まされたカエル
(クリックで画像の拡大)
冬眠を覚まされたカエル。
 画像上部の、茶色の細長い筒はゴム手袋の指。
 
ナメクジの卵
(クリックで画像の拡大)
ナメクジの卵。
ワラグロの、重畳する命の世界
 温床の幼虫をあてにしていた。或る人から、カブトムシの幼虫がほしい、と頼まれていたからだ。わずかしかいないのが分かって、私はあわてた。カブトムシの幼虫がいそうな場所は、もう一カ所ある。「村便り:2012-01-28(土)/01-29(日) (寒起こし)」で書いた、休耕田のワラグロである。温床での作業が一段落してから、今度は田んぼに行った。ワラグロの堆肥化した藁を少しずつ剥がすようにして探すと、はたして今度は幼虫が次々と出てきた。その数、四十八匹。その人には二十数匹という数を伝えていたので、安堵した。

 ワラグロには、冬眠中の小さなカエルと、ナメクジとその卵が見つかった。カエルは少したつと迷惑そうに動き始めた。邪魔をして申し訳ない気がしたので、カエルは、寝床にしていた堆肥化した藁と一緒に、十二月に新しく作ったワラグロのそばに移動してやった。ここなら目覚めるまで平穏に過ごせるだろう。ナメクジの卵は…これも申し訳ないが、その辺りに投げ捨てた。


自然を生きる倫理
 カブトムシの幼虫にしても、カエルにしても、ナメクジにしても、田んぼにある、が作ったワラグロの中に棲んでいた。いわば私の所有権の及ぶ範囲内に彼らは棲んでいた。だから、私は、自分の所有物を分贈与するように、カブトムシの幼虫を或る人にあげる。そのように、はっきりと意識してではないが、思っていた。

 しかし、その思いには、なにか理不尽なところがあるような気がしてきた。

 田んぼが田んぼであり、ワラグロがワラグロであるのは、また、それらが誰かの所有権のもとにあるのは、私を中心にした人間にとってである。私の世界での、人間の世界での、田んぼやワラグロとしての用途であり、所有権である。他方、カブトムシにとっては、ワラグロはワラグロではなく、産卵場所であり、孵化した幼虫にとっては、住処であり、食料庫である。ワラグロはカブトムシの世界にあっては、人間の世界におけるのとまったく違う様相と意味合いをもつ。ワラグロは、二つの同等の価値をもつ、また、それぞれが固有の価値をもつ、世界の重なり合いである。

カブトムシの幼虫のためのベッド
(クリックで画像の拡大)
カブトムシの幼虫のためのベッド。
 堆肥から掘り出したカブトムシの幼虫は、ふつうは、別ところに作った堆肥のベッドに移動してもらう。たまたま私の力が比較的強大であるがゆえに、彼ら世界を破壊してしまったせめてもの償いである。でも、それから先の面倒はみない。たとえば、ベッドがイノシシに掘り返され、餌食となっても、それは二つの命の世界の出会い、重なり合いの、いわば自然の理にしたがった結果であり、私が介入すべき筋合いの事柄ではない。

 ところが、幼虫たちを、自然の理から外れた仕方で、私の手から他の人の手に渡し、自然の理に外れた環境に置くのは、かれらの世界に対する越権であり、侵犯ではなかろうか。越権とか侵犯とかは、むろん法律にかかわることではなく、倫理にかかわることである。倫理とは、自然を生きる倫理である。

 そんなことを考えていると、なにやら居心地の悪い気がしてきた。

 カブトムシの幼虫は二グループに分け、一グループは畑の隅のドングリの木の下にベッドを作り、そこに放した。もう一グループは段ボール箱の中に堆肥を詰め、その中に潜ませて、別の場所に旅立たせた。到着した新しい環境のなかで、彼らの生を全うしてほしいものである。
村便り:2012-01-28(土)/01-29(日) (寒起こし)
投稿日:2012-02-06(月)

 先週末の作業で終わらなかった藁を広げる作業を土曜日に済ませ、日曜日に、田んぼの土をトラクターでひっくり返した。脱穀後、最初の荒起...

 先週末の作業で終わらなかった藁を広げる作業を土曜日に済ませ、日曜日に、田んぼの土をトラクターでひっくり返した。脱穀後、最初の荒起こしを寒の内に終える、という目標は今年は達成できた(ただし、5畝ほどの田んぼ一枚は残ったが)。昨シーズンに比べて、1カ月早い荒起こしである。



(クリックで画像の拡大)
耕耘。
 写真を撮るために、トラクターから離れたので、ロータリー(回転刃)は上げてある。
 写真の奥は、北。一番奥に見える開いたV字形の山並みの麓は、熊野の町。江戸時代末期からの筆の産地。「なでしこジャパン」に国民栄誉賞の記念品として贈られた化粧筆で、一段と有名になった。
耕耘してひっくり返した土
(クリックで画像の拡大)
トラクターの運転席から見る、ひっくり返した土。
 手前に見える車輪は、右前輪。
寒起こし
 日曜日は風のある寒い日。トラクターに乗って操作するだけだから、体はあたたまらない。地下足袋に脚絆の足がとくに冷えた。田んぼの土は乾いているので、動きやすい地下足袋にしたが、寒さを考えるとゴム長がよかったかな、と後悔した。

 トラクターの回転刃は締まった土を、広げた切り藁の上からひっくり返す。湿った土は稲や草の根が張っているので、粉砕されず、塊となって転がる。切り藁は、土に混ざる、というよりは、土塊に絡みつく。

 藁は、切って堆積した状態では、そのまま冬を越しても腐らない。そして、暖かくなってからはじめて鋤きこんだのでは、田植え後、水の張った地中で腐って、ブツブツとメタンガスを放出する。しかし、冬の間に(経験的には、遅くても二月中に)鋤きこんでやれば、代掻き頃には腐って崩れる。鋤きこむと表現したが、土と混和する必要はない。土に直接触れているだけで十分である。

 土は、細かく砕く必要はなく、ざっくりと起こすだけでいい。すると、冬の間に、凍みたり、乾燥したりを繰り返して、自然に崩れる。藁も腐った土を春に起こすと、代掻きの準備が整う。



セキレイ
(クリックで画像の拡大)
羽の間に空気の層を着て、着ぶくれしたセキレイ。
伴は野の生き物たち
 土をひっくり返すと必ず鳥がやってくる。今日はカラスとセキレイがやって来た。掘り出された虫や籾を狙うのだろう。今から十数年前、その頃は耕耘機で田起こしをやっていた。まだ四、五歳だった子どもが、私が耕耘するあとからついてきて、起こされた土の中から虫を見つけては声をあげた。当時、私は《子連れ狼》的な生活をしていたので、寒くても、子どもは私にくっついてきた。ふとそんなことを思い出した。しかし、いまは子どもは成長し、私は百姓する《孤狼》(孤老?)となり、伴は野の生き物たちだけとなった。

カブトムシの幼虫?
(クリックで画像の拡大)
カブトムシの幼虫?
 昨シーズン作ったワラグロがある。その田んぼは昨シーズンは休耕したが、今シーズンは水田に戻す予定なので、耕耘の前に、ワラグロの残骸を焼却した。残骸の上の方は、藁の形が残っていたが、底の方は、堆肥化していた。その部分は田んぼに撒いてしまおうと思って、掘り返すと、中から幼虫が出てきた。形状、大きさから判断するに、どうもカブトムシの幼虫のようである。田んぼは山からかなり離れているが、親カブトムシはここまで飛んできたのだろうか。幼虫がいると分かると、その堆肥の《揺籃》を崩してしまう気にはならなかった。後日、幼虫を堆肥ごと別の場所に移動させてから、耕耘することにして、今日は《揺籃》はそのままにしておいた。




(クリックで画像の拡大)
鉄パイプの笛。
風に鳴る《笛》
 荒起こしが終わると、トラクターを田んぼから出す前に、車輪や回転刃にくっついた土をざっと落とす。その間、強い風が田んぼを吹きわたっていた。風が吹くとどこかで、ピュー、といった音がする。笛の音のようでもある。何もない吹きっさらしの場所でいったいどんな笛が鳴っているのだろうか、と音をたどると、トラクターの、穴の空いたパイプだった。いままでもこの音は耳にしていたが、今日はじめてその正体が分かった。風がトラクターのパイプを吹いていたのだ。
Powered by
Serene Bach 2.19R